海洋モニタリング

ニューヨーク・タイムズが「海洋観測史上最大の革命」と称賛した観測ロボット4000台が海面から水深2,000mまで浮沈を繰り返しながら水温と熱量を観測しています。海は 食料生産、気候、観光に重要な役割を担っているにもかかわらず、謎に包まれていますから、この観測方法は称賛に値すると言えます。

窒素と酸素のモニターを搭載した観測ロボットをモントレーベイ水族館のチームが最初に海に送り出したのは2008年でした。研究所では海の基礎代謝を観測しています。モントレーベイ水族館研究所の主任科学者ケン・ジョンソン氏は「体調を崩して医者に行っても、すぐにMRI検査に送られるわけではありません。まずは基本的なバイタルサインを測定しします。それと同じことを海で行っているのです。」と説明します。ガス・センサーを活用して酸素と二酸化炭素を測定することで、海中の動植物の代謝、成長、死滅を測定できるのです。

人間同様、海のバイタルサインをモニタリングすることにより、科学者は壊滅的な影響をもたらす代謝の乱れを知ることができます。例えば、海水温の上昇は海から酸素を奪い、回遊パターンの変化や種の多様性の減少につながり、生態学的レジリエンスを低下させています。酸素の乏しい環境は、温室効果ガスを発生させるバクテリアにとって都合がいいのですが、それが気温上昇の問題をさらに複雑にしています。

海からの警告

海水温の上昇は海から酸素を奪い、回遊パターンの変化や種の多様性の減少につながり、生態学的レジリエンスを低下させまています

海水温上昇に伴い、海洋植物も危機に瀕しています。海洋植物の生育は海洋深層水の栄養塩に依存しますが、栄養塩は湧昇流により海の表層へと運ばれます。海洋表層の水温が上昇すると、低温の海水が上昇しにくくなり、栄養塩の流れに変化が起こります。ジョンソン氏は、「このセンサーは、海中の問題を探るためのMRIのようなものです。」と話しています。

これまでは広範な海域のサンプル採取は不可能でしたが、海域によっては10年に一度サンプルが採取されていました。「海洋環境の実態を調べるには10年に一度では十分ではありません。海洋科学者は夏だけデータを採取する傾向があって偏りがあります。誰も冬のサンプルを採取していません。」とジョンソン氏。年間を通して定期的にサンプルを採取できるようになったことで、海洋学者たちは、海洋酸性化の程度が海域によってどのような違いがあるか測定できるようになりました。

「このセンサーは、海中の問題を探るためのMRIのようなものです。海洋環境の実態を調べるには10年に一度では十分ではありません」

1990年代、衛星リモートセンシングは海洋変動の監視にならない技術でした。今では、AI観測システム、セイルドローン、ウェーブグライダーなどの技術があります。ジョンソン氏の観測ロボットは、浮力を変化させることで動作するプロファイリングフロートを採用し、1kmまで降下して5~10日間漂流し、その後2kmまで深く潜ってから海面に戻ってきます。

海洋熱波として知られる異常な海水温上昇が、現在、海洋のさまざまな海域で発生し、魚類、海鳥、サンゴ、沿岸生態系に影響を与えています。1982年から2016年で海洋熱波の発生頻度は倍増しました。そして2023年8月、世界の1日平均海面水温は2016年の記録を上回り、20.96℃まで上昇しました。

海洋熱波の増加

1982年から2016年で海洋熱波の発生頻度は倍増しました。そして2023年8月、世界の1日平均海面水温は2016年の記録を上回りました

これは、南極の海氷面積が2013年と2014年に観測史上最大を記録し、その後2016年から2020年にかけて急激に減少したという事実とは対照的です。「海は思っている以上に変動し、海洋の健全性の指標は上下しやすく、年間の海洋循環は変化しています。」とジョンソン氏は説明しています。「変動の度合いを示す観測データはありません。海色(クロロフィル濃度)を測定する衛星を30年近く飛ばしてきた実績はありますが、それは表面上のものです。ほとんどのクロロフィルは、栄養塩のある深海にあるのです。」

太陽光の海面反射を測定する 海色センサは、1978年に初めて打ち上げられましたが、1986年から1996年に記録の空白があります。その後、日本とアメリカが打ち上げたセンサーが稼働しています。これは外洋域には適しているのですが、沿岸水域は、河川の流出水や陸上活動からの浮遊粒子により、より複雑な様相を呈しています。

海の酸性化を元に戻す

人為起源の排出ガス30〜40%を吸収する海は、世界の重要な二酸化炭素吸収源となっています。海が温室効果ガスを除去するという自然のプロセスを加速させることで、海に気候変動の抑制効果が期待されています。

二酸化炭素(CO₂)が海洋に与える影響
1

大気中の人為起源のCO₂の量が増えると、過剰な量のCO₂が海に吸収され、海水の化学的性質が変化します。

2

海洋に溶け込んだCO₂は水と反応します。この化学反応により炭酸が生成され、海洋のphが低下して酸性に傾き、貝殻を作る材料が減少していきます。 また、成長や繁殖の低下、代謝の変化など、さまざまな生物学的影響を引き起こす可能性もあります。

3

海洋食物連鎖の下位に属する小さな動植物(植物プランクトンや動物プランクトン)が海洋酸性化の影響を受けると、上位に属する大型生物が利用できる餌が減少する恐れがあります。

4

その結果、海洋酸性化は、水産業で生計を立てる沿岸地域社会への影響が懸念されます。

出典: カナダ漁業海洋省

現在、海洋から二酸化炭素を除去し、海洋酸性化を元に戻す方法を模索する研究チームがいくつかあります。現在のところ、溶解した重炭酸塩を二酸化炭素の分子に変換してから、真空下で除去する方法が研究されています。この変換は、膜による電気透析法で海水を一時的に酸性化する方法です。しかし、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは膜を使わない方法を考案し、酸性水をアルカリ性に戻してから海に放出することに成功しました。このプロセスにより、海洋酸性化が局所的ではあるものの徐々に減速し始めることが期待されています。また、除去された二酸化炭素は資源として利用できますが、大部分は地下貯留層に貯留されることになっています。

地球の炭素のスポンジ

人為起源の排出ガス30〜40%を吸収する海は、世界の重要な二酸化炭素吸収源となっています

記録することは沿岸生態系の再構築につながります。「多くの沿岸域の海は回復していますが、それは、人間が注意を払っているからです。つまり、私たちは何かを見て気づいたら修正しますが、注意も払わず問題の存在にも気づかなければ、問題解決の努力はしません。」とジョンソン氏は話しています。

アブダビの例では、数千ヘクタールの沿岸域を回復させたことにより、保護しているジュゴンの個体数が世界第2位となっています。人魚のモデルとされイルカにも似たジュゴンは、サンゴやウミガメ、その他の海洋生物が繁殖できる環境で繁殖するということがわかりました。

同じように、インド政府は、廃棄物管理、水処理、ガンジス川河畔の生態系保全を行うコミュニティへの参加などに投資するイニシアティブを主導しました。これまでに、42億5,000万米ドルの投資で370km以上の河岸域が回復しました。

国別の対策
インド

42億5,000万米ドルの投資で370km以上の河岸域が回復しました

アブダビ

沿岸域を回復させたことにより、保護しているジュゴンの個体数が世界第2位となっています。

ジョンソン氏のセンサーが収集するデータは、漁業管理や酸素の分布パターンなどで応用されています。しかし、新たに環境DNA(eDNA)の分野において、壮大なプラス効果をもたらすことが期待されています。「剥がれ落ちたDNAの研究が進んでいます。現時点では、環境の健全性を示していますが、具体的なことはまだわかっていません。」とジョンソン氏は説明しました。eDNA技術は、生物の排泄物や組織片を測定するため、新種の発見にも役立っています。

海洋音響技術も進歩していますが、これは海軍の規制により国家安全保障上の問題となる国もあります。しかしながら、より高度で高価な技術が海洋モニタリングに導入されることは画期的なことです。

AI技術による予測

魚類は世界の食糧安全保障と栄養において重要な役割を担っており、乱獲や不平等な資源配分などへの対応を含めた持続可能なシステム構築を実施しなければなりません。水生食料生産は2030年までに15%増加すると予測されていますが、その前に魚類資源の現状を把握する必要があります。しかし、世界、特にアジア、アフリカ、中南米などの魚類資源に関するデータは不完全です。

2030年までに15%増加

水生食料生産は2030年までに15%増加すると予測されていますが、その前に魚類資源の現状を把握する必要があります。

出典: 国連食糧農業機関

持続可能性を判断するために、水産未利用バイオマス資源と持続可能な水産バイオマス資源などの水準評価が行われています。データが限られているため、食料源をサンゴ礁に依存する人が多い熱帯地域一帯においては、漁業の現状を正しく把握することができていません。

漁業資源評価は、特定の魚の個体群に対して持続可能な漁獲制限を設定するなど、漁業を管理するために実施されています。その方法のひとつがABC算定法で、資源量、年齢、個体数、成長率などの生物学的要因と漁獲データを調べています。しかし、この方法は費用と労力がかかるため、途上国にとっては費用負担が阻害要因となり、富裕国に限られています。

もうひとつの方法は、沿岸や水揚げ場での漁獲量を測定するもので、最も豊富なデータが存在します。しかし、最も優れたデータは富裕国の調査機関が実証的に収集したものですので、世界の漁業の現状を推察するには問題があります。

海面からの反射光から魚の個体数を予測できるとは、おそらく誰も気づいていなかったでしょう。これは非常に画期的です。

- ティム・マクラナハン博士、野生生物保全協会海洋科学部長

現在、新たにAI技術を活用して研究者は魚類資源を推定できるようになり、漁業データが乏しい国は資源の持続可能性を判断できるようになっています。野生生物保全協会の海洋科学部長のティム・マクラナハン博士らが開発したこの技術は、西インド洋の試験地域で85%の精度で魚類資源を推定しました。

マクラナハン博士は数年にわたってこの調査を行っていますが、まずは漁業がおこなわれていない保護区で魚の数を数えて、回復率を推定することから始めました。1,000以上の海域を横断して魚の数を数え、水温、岸からの距離、海の生産性、水深、既存の漁業管理などの衛星データを収集しました。

マクラナハン博士は70%の情報でモデルを訓練し、残りの30%に対してテストを行いました。「その結果、85%の予測能力があることがわかったのです」とマクラーナハン博士は話します。「基本的に海面からの反射光から魚の個体数を予測し、その距離と管理システムを知ることができるとは、おそらく誰も気づいていなかったでしょう。これは非常に画期的です。」と彼は熱く語りました。

5000万ドルから1億5000万ドル

パイロット調査でAIツールを使用して回収された金額

この手法の優れた点は、世界中のどこでも誰でもこのツールを使って、魚類資源の健全性、回復に必要な時間、さらには不正漁業によってどれだけの資金が失われているのかを判断できることです。パイロット調査では、このツールを使って回収された金額は年間5000万〜1500万米ドルでした。マクラナハン博士は、この方法が漁業研究におけるAIのさらなる応用への道を切り開くことを期待しており、すでにこのモデルを地球規模の気候変動の予測に使用しています。

衛星による低酸素海域の追跡

通常、海洋の溶存酸素濃度は7~8mg/Lで、濃度が4mg/Lを下回ると、魚類やその他の生物種はその海域から移動するか、その海域を避けるようになります。酸素濃度の低い海域はデッドゾーンと呼ばれ、酸素濃度が2mg/L以下の海域は低酸素海域と呼ばれています。

「海洋の低酸素症の原因は複数ありますが、最も一般的なのは陸地からの過剰な栄養塩の流入です。」 と、ミシガン州立大学の人間環境科学者で、世界のデッドゾーンを監視しているインジー・リー博士は説明してくれました。「もう一つの原因は、間違いなく気候変動です。海水温の上昇に伴い、海水に溶け込む酸素量も低下します。他にも原因はたくさんありますが、この2つが最も重大です」とリー博士。このような低酸素海域の数と規模の拡大は、海洋生態系の健全性に対する脅威を増大させ、ひいては人間の福利にも影響を及ぼします。

海洋の低酸素症の原因は複数ありますが、最も一般的なのは陸地からの過剰な栄養塩の流入です。もう一つの原因は、間違いなく気候変動です。海水温の上昇に伴い、海水に溶け込む酸素量も低下します。

- インジー・リー博士、ミシガン州立大学の人間環境科学者

リー博士は、衛星画像を使って海洋中の酸素濃度を測定しています。これは海水サンプルを採取して実験室で酸素濃度を調べるという一般的な人手のかかる方法よりも簡便な方法です。酸素濃度により変化する海面の藻類の画像は、時空間的に高い解像度で毎日撮影されています。藻類の変化の画像は、低酸素海域の地図を作成するために使用されています。衛星画像データは、科学者が自由に利用できるNASAの地球観測システムから入手しています。

低酸素海域マップを作成するにあたり、機械学習モデルの訓練が必要でした。「衛星画像は素晴らしいですが、地上レベルのデータも重要です。私たちはルイジアナ州立大学の海洋科学者と協力し、海水のサンプルを収集しました。また、NOAAから入手可能な水のサンプルも使用しました。これらのサンプルはすべて、機械学習モデルのトレーニングに必要でした。」とリー博士は説明しています。

現在、研究チームはこのツールをプラットフォームとして公開し、他の科学者が他の地域でも同様のアプローチを使えるようにする計画です。研究チームは、このツールが政策立案者以外にも役立つことを期待しています。「これは世界的に大きな意味を持ちます。」「農家が使用する肥料や生産する食品について情報を提供することができますから。」とミシガン州立大学のジアングオ・リュウ氏は話します。

遠方から運ばれてきた肥料は食糧生産のために農家で使用され、過剰な栄養は海に流出します。責任は農家だけでなく、私たち全員にあるのです。このツールは、一般や政策立案者に情報提供し、知識を行動に移すために、非常に大きな役割を果たすでしょう」とリー博士は前向きに述べています。

自然に基づくソリューション

気候変動との闘いにおいて、排出量削減だけでは十分ではなく、二酸化炭素を積極的に隔離して効果的に二酸化炭素排出量をマイナスにする必要があると専門家たちは考えています。その結果、二酸化炭素除去技術が急成長産業となっていますが、その効果を上げるためには年間10億米ドルが必要です。

大気から二酸化炭素を隔離する方法の一つは光合成です。植物は二酸化炭素を吸収してブドウ糖を作り、酸素を放出します。この方法で、植物は大気中の二酸化炭素を回収し、貯蔵できるのです。

これまで炭素貯留は森林などの陸上生態系に依存してきましたが、マングローブ林、海草藻場、コンブ林などの沿岸生態系も炭素を貯留します。また、コンブや海藻ももう一つの解決策であり、年間2億トン近い二酸化炭素を貯留していると考えられています。これはニューヨーク州が1年間に排出する二酸化炭素量に匹敵します。単純に存在するだけで、その生理的メカニズムにより大気中から汚染物質を取り出し、食料として利用しているのです。

出典:ハーバード大学

アラスカ大学フェアバンクス校水産海洋科学部のシェリー・ウマンゾール助教授は、「この6、7年、その勢いは増しています」と説明しています。「当初は、タンパク質源としての食料生産が中心でしたが、バイオ燃料が登場し、今ではバイオプラスチックの生産と、大気中の炭素を除去して深海に貯留する方向へと向かっています。」

炭素と窒素の取り込み速度にこれほどの違いが出るとは思っていませんでした

- シェリー・ウマンゾール助教授、アラスカ大学フェアバンクス校水産海洋科学部

アラスカでコンブ養殖漁業者と3年間にわたって調査を行ったウマンゾール博士は、炭素の取り込みが地域や種によってかなり違うことに気が付きました。「炭素と窒素の取り込み速度にこれほどの違いがあるとは思いませんでした。」と、リボンコンブとシュガーコンブの種の実験について話してくれました。

時間や種によって異なる可能性が高いので、これらの違いはコンブが炭素の吸収源であるか供給源であるかに影響するのかもしれません。このような理由から、ウマンゾール博士は、コンブが海洋酸性化や炭素関連の何かを緩和するという主張には慎重です。「コンブが収穫される時期や地域によっても異なるでしょう。」と説明しています。

ウマンゾール博士は、コンブが炭素に与える影響ではなく、コンブが海洋から窒素を非常に効果的に除去する能力に注目しています。窒素は海洋生産性を高める栄養素ですが、海洋生物にとって必ずしも有益とは限りません。窒素はサルガッサムと呼ばれる褐色の海藻を浮遊させ、サンゴや海草を窒息させます。また、硫化水素を放出し、海洋生態系や観光業に悪影響を与えることもあります。コンブの養殖場では、窒素除去よりも炭素再生の概念の方が進んでいるのですが、このような事態を引き起こす高濃度の窒素の相殺が可能となっているのです。

アマゾンから波及

アマゾンはオランダ沖で世界初の商業規模の海藻養殖に150 万ユーロの資金提供の意向を示しました

成功への船出: EUの海藻イニシアティブ

欧州海洋漁業基金は、持続可能なEU海藻産業の発展を目指すスコットランドの企業が運営するプロジェクトに、210万ユーロの資金を提供しました。

コンブ養殖産業への資金提供はアラスカの新たなゴールドラッシュと呼ばれていますが、アマゾンはオランダ沖で世界初の商業規模の海藻養殖に150万ユーロの資金提供の意向を示しました。一方、欧州海洋漁業基金(European Maritime Fisheries Fund)は、持続可能なEU海藻産業の発展を目指すスコットランドの企業が運営するプロジェクトに210万ユーロ の資金を提供しました。

ケーススタディ - アズール・バイオ社

人間の腸内には、マイクロバイオームと呼ばれる何兆個もの微生物(常在微生物叢)が生息しています。人それぞれに固有のマイクロバイオームがあり、バクテリアから成る微生物が指紋のように人によって異なっていて、健康状態や病気の素因を知る手がかりとなっています。海洋環境も同様に、その健全性に寄与する微生物群集が存在しています。

スタートアップ企業のアズール・バイオ社のCEO、ベンジャミン・アルバ博士によると、サンゴのマイクロバイオームは驚くほど複雑だということです。「サンゴは何千もの個体で構成されています。光合成によって餌を供給する共生藻類、窒素循環やその他の利益をもたらす膨大な数のバクテリア、サンゴの骨格の中に棲む菌類など、サンゴは単一ではなく超個体なのです」とアルバ博士は説明してくれました。「あるサンゴは他のサンゴよりも強靭であり、それは純粋に遺伝によるものではなく、主にマイクロバイオームが関係しているというのが有力な見方です。」と話しています。

サンゴは何千もの個体で構成されています。光合成によって餌を供給する共生藻類、窒素循環やその他の利益をもたらす膨大な数のバクテリア、サンゴの骨格の中に棲む菌類など、サンゴは単一ではなく超個体なのです。

- ベンジャミン・アルバ博士、アズール・バイオ社CEO

アズール・バイオ社は、サンゴのマイクロバイオームを強化する製品を開発しています。気候変動がサンゴ礁に与える影響に対応するため、数年かかる選抜育種を必要しない、サンゴの強靭性を急速に高める解決策を探していました。

「2018年のエルニーニョは、グレートバリアリーフで大規模なサンゴ白化を引き起こしました。気候変動が海洋生息地に及ぼす影響の深刻さを世界に知らしめたのです。サンゴの回復にはすでに多くの資金が投入されていましたが、一年で消えてなくなりました。サンゴはこのような新たな脅威に対して回復力がないので、回復力を高めるために自然と協力する生物学的な解決策が必要なのです。」とアルバ博士は説明しました。

出典: ブリティッシュ・コロンビア大学

出典: 全米海洋大気協会

海洋マイクロバイオームのためのプロバイオティクスの設計

アルバ博士の研究チームは、その地域固有の自然共生微生物を利用して、太平洋地域のためのプロバイオティクスを開発しました。 プロバイオティクス とは、病気や腐敗の原因となる微生物の増殖を抑える一方で、有益な微生物叢を改善する働きをする細菌株のことです。プロバイオティクスを改善することにより、サンゴ礁の周りの海が温暖化しても、サンゴ礁は白化を免れることができるのです。

アズール・バイオ社は最終的に、自然のサンゴ礁でプロバイオティクスを大規模に生産・展開することにしています。既にサンゴ礁の再生に資金提供している沿岸のホテルやクルーズ会社、ダイビング協会などが興味を示してくれることを願っています。「官民両方の事業への販売を検討していますが、観光業界にとって生態系資源は重要なので、観光産業への働きかけに力を入れていくつもりです。」とアルバ博士は説明します。

官民両方の事業への販売を検討していますが、観光業界にとって生態系資源は重要なので、観光産業への働きかけに力を入れていくつもりです

- ベンジャミン・アルバ博士、アズール・バイオ社CEO

設計の過程は個別にサンゴの生態系に合わせて行われます。まず、強靭性が高く、白化が少ないサンゴを探し、サンゴ周辺からサンプルを採取し、全ゲノム配列によってそのマイクロバイオームを分析します。「全ゲノムの複製を得ることで、周辺に存在したすべての情報が得られます。バイオインフォマティクスを使えば、どの遺伝子が熱に対する強靭性を高めるかを特定することができ、どの微生物種が最も効果的かを迅速に特定することができます」とアルバ博士は語りました。

プロバイオティクスを創り出す際に、研究者たちは選択した微生物が共存・増殖でき、微生物間に拮抗作用がないことを確認する必要があります。これはハイスループットスクリーニング技術という、化学物質の生物学的活性評価をする際に伝統的に採用されている手法です。ゲノム配列や複雑なサンゴ群集のゲノム解析が可能になったのは最近のことで、コストの低下により小さな組織でもこのような技術を活用できるようになりました。

2050年までに全サンゴの90%が絶滅すると言われています

- ベンジャミン・アルバ博士、アズール・バイオ社CEO

一刻を争う事態です。サンゴは気候変動によって絶滅の危機に直面する最初の生態系と言われています。「2050年までに全サンゴの90%が絶滅すると言われていますが、現在は50%です」とアルバ博士は話します。

サンゴを救うための別の解決策には、選択交配と遺伝子バンクがあります。選択育種では、高温に耐えられるサンゴと耐熱性の低いサンゴを交配します。遺伝子バンク プログラムはフロリダキーズで展開されています。危機に直面するサンゴの種は、自然の生息地から持ち出され、適切な照明、温度、化学的性質、餌を備えた水槽で培養されます。サンゴは、再導入できる大きさと年齢になるまで育てられます。

サンゴ礁は年間10兆米ドルの経済価値があると推定されると同時に、サンゴに依存する海洋生物種にとってかけがえのない存在なのです。投資家が地球を救うための解決策を模索しているため、ベンチャーキャピタルへの投資は過去10年間で増加している、とアルバ博士は語っています。

波の下の宝物

サンゴ礁は年間10兆米ドルの経済価値があると推定されると同時に、サンゴに依存する海洋生物種にとってかけがえのない存在なのです。

バイオ・アズール社は、プロバイオティクス製品を完成させ、11月と12月に最初のパイロット試験を計画しています。「私たちは新しい市場を生み出そうとしています。新しい技術には常に困難が伴いますが、それは以前にはなかった需要を生み出さなければならないからです。私たちは、この製品に大きなニーズがあることをユーザーに知ってもらわなければなりません。」

人間の影響に対する海洋生物の回復力を高める - アズール・バイオとの対話を聞く

Sign up to the Back to Blue newsletter to receive latest news and research from the programme.