はじめに

ケニア・ポルトガル政府がリスボンで主催する第2回国連海洋会議では、プラスチック汚染に関する新たな条約実現の道筋が重点的に議論される見込みです。プラスチック汚染が同会議の重要議題となることは歓迎すべき出来事であり、政府・環境活動家・企業・科学者コミュニティの認知向上と連携推進に向けた過去数十年の努力が実を結びつつある証だと言えるでしょう。

Executive Summary Cover

しかし、海洋環境保全にはプラスチック汚染への取り組みはもちろん、それ以外の汚染物質への対応も不可欠です。2022 年 3 月にエコノミスト・インパクトと日本財団が発表した報告書『海に忍び寄る新たな危機:有害化学物質による海洋汚染と克服に向けたビジョン・方策』では、有害化学物質による海洋環境汚染(以下、海洋化学汚染)をプラスチック汚染と同様の重要性・深刻度を持つ問題として取り上げました。これら二つの問題は、様々な意味で表裏一体を為す問題なのです。

本報告書の大きな目的は、化学汚染を海洋環境の重要課題として確立することです。報告書の発表はその最初のステップにすぎません。海洋化学汚染に関する知見・認識に変革をもたらし、国際連携を通じた対策の推進に貢献するという大きな目標を掲げています。

2021 年を通じ、私たちは『Back to Blue』プロジェクトの一環として、企業リーダー・投資家・科学者・環境活動家・政策担当者など100 名を超える専門家に取材を行いました。

貴重な時間を費やし、知見を共有いただいた専門家の見解には、大きな共通点が見られます。それは、喫緊の課題であるにもかかわらず、海洋化学汚染の深刻さが十分認識されていないこと。そして早急に対策を講じなければ、海洋環境に大きな(そして恐らく不可逆的な)損失をもたらす可能性が高いということです。海洋化学汚染に関するデータの蓄積は進んでおらず、リスクの数値化は必ずしも容易でありません。しかし対応に “一刻の猶予も許されない” ことは、動かざる事実です。

事態の深刻さにも関わらず、化学汚染を優先課題と考えている企業リーダー・投資家・政策担当者はごくわずかです。海洋化学汚染を重要課題に挙げた人は皆無でした。科学的根拠に基づく対策の必要性と、関係者に見られる危機意識のギャップは極めて深刻な状況にあるのです。

本報告書は、企業・投資家・政策担当者への一方的な批判を目的とするものではありません。今回取材を行った関係者の多くは、海洋化学汚染に対する関心不足の理由として、脱炭素化・循環型経済といった問題に関心が割かれてしまっていることを挙げています。現状黙認の口実とされないよう注意する必要はありますが、こうした側面があるのは事実でしょう。本報告書を契機として政府・企業・市民社会が対話を図り、問題解消に向けた道筋や具体的方策について活発な議論を行うことを願っています。

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エコノミスト・インパクト
Charles Goddard
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日本財団
笹川陽平

報告書(全文)を読む

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陸地、大気、河川、水域の化学物質汚染は数十年にわたり深刻な問題であり、時には断固たる行動に迫られることもありました。しかし、化学物質汚染の全貌が明らかとなってきたのはごく最近のことです。報告書(全文)を読む

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海洋環境の悪化と、より安全で環境にやさしい化学物質への移行の必要性や責任ある使用と廃棄について、専門家の話をお聞きください。ビデオを見る

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化学物質がイノベーションを通じて21世紀のクリーンな経済に貢献できるよう、化学物質汚染の原因とその影響、そして浄化に必要な重要対策を可視化しています。インフォグラフィックスを見る

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没入型のデータストーリーで、化学物質と海洋環境の相互作用に関する最新科学とエビデンス、そして今のうちにこの問題に取り組むために必要なステップをご案内します。データについてもっと詳しく知る

 

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