エグゼクティブ・サマリー

プラスチック汚染がもたらす脅威は世界全体に広がりつつある。そしてアジアではその影響が特に深刻だ。ある推計によると、2015 年に世界の海洋環境で見られた廃プラスチックの半分以上は、アジアの5カ国(中国・インドネシア・フィリピン・タイ・ベトナム)から流出したものだ。廃プラスチックの流出は、アジア全体の海洋・淡水・陸地環境と生態系に大きな害を及ぼしている。プラスチック管理体制の不備が目立つ東南アジアでは、汚染状況が特に深刻だ。

2016 年に作成されたランキングで上位20カ国に含まれるなど、インドネシア・タイ・マレーシアは世界の主要プラスチック排出国となっている。新型コロナウィルス感染症(COVID-19) の拡大により、これらの国々を取り巻く環境はさらに悪化した。今回取材を行った専門家がその背景として挙げるのは、個人防護具(マスク・手袋など)や飲食店でのテイクアウトの利用拡大により、廃プラスチックの排出量が2020 年初頭から急増したことだ。

リサイクル業者やインフォーマル・セクター*の廃棄物収集業者がロックダウンにより休業を余儀なくされたことで状況はさらに深刻化。(特に中国による2018 年の輸入禁止措置以降)東南アジア諸国が海外からの廃プラスチック受け

*インフォーマル・セクター:公的な廃棄物処理の仕組みに組み込まれていないセクター入れを継続していることも、事態を複雑化させている。

同地域におけるこうした状況には改善の兆しが見られない。しかし次のような前向きな傾向も見られる:


  • 域内主要国ではプラスチック製品のライフサイクル管理が定着しつつある。長年取り組みに消極的だった各国政府は、プラスチックの製造・利用・廃棄を規制する様々な政策を打ち出している。
  • 国境を越えたプラスチック管理の必要性に対する認識が高まりつつある。例えば2021 年5月、ASEAN(東南アジア諸国連合)は海洋プラスチックごみの削減に向けた地域レベルの行動計画を発表した。
  • 各国政府が政策的取り組みを加速させる一方、同地域ではリサイクル業者へ廃プラスチックを提供する収集業者・集積業者の非公式かつ大規模なネットワークが重要な役割を担っている。業者間の連携は十分に行われておらず、協力体制の構築は決して容易でない。しかし公的なプラスチック管理体制との統合が進めば、循環利用の実現を大きく後押しする可能性がある。
  • NGO(非政府組織)や社会的企業の活動も加速しており、政府・民間セクターの取り組みが行われていない、あるいは効果を上げていない領域でプラスチック管理体制の強化に貢献している。またこうした組織の存在は、同地域で政府への助言やプラスチックの循環利用推進に取り組む国際機関からの物質的支援につながっている。

ただし、こうした流れによって東南アジアの現状が大きく変わるわけではない。域内諸国は依然として深刻な脅威にさらされており、製造・消費・廃棄・再利用というライフサイクル全体を通じたプラスチック管理の新たな枠組み構築が求められる。廃プラスチックの流出防止と循環利用の促進に向けた取り組みが急務となっているのはそのためだ。

東南アジアに関するPMIの主要な論点2021 年10 月にエコノミスト・インパクトが作成した『Plastics Management Index: プラスチックの効果的管理と持続可能な利用に向けたビジョン』で詳述したように、Plastics Management Index(プラスチック管理指数= PMI)は世界25 カ国を対象としてプラスチック管理に向けた取り組みを比較・評価する試みだ。対象国には東南アジアから4カ国(インドネシア・フィリピン・タイ・ベトナム)が含まれている。各国のスコア・ランキングは、『ガバナンス』・『管理・運営能力』・『ステークホルダーの関与』という3つのカテゴリーにまたがる様々な指標を元に算出された。域内4カ国に関する主要な論点は以下の通り:

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