著名な経営学者 ピーター・ドラッカーは、「測定できないものは管理できない」という名言を残している。ビジネスの世界で広く知られるこの言葉は、海洋化学汚染の問題にも重要な示唆をもたらすものだ。

海洋化学汚染対策において、データ不足は大きな課題であり、存在するデータについても公開が進んでいない。現在使用されている化学物質の数は約30万に上っており、海洋生態系にもたらす複雑な影響の解明をさらに難しいものにしている。

こうした現状を背景に、海洋化学汚染の克服に向けた取り組みではまさにドラッカーが指摘したような状況が生じているのだ。科学者は汚染の実態・規模を明確に把握できておらず、政府による化学物質の管理体制不備につながっている。国際・国・地域レベルの規制は存在するものの、有効な対策は必ずしも打ち出せていない。問題解消に向けたソリューションは既に開発されているが、その導入・実行には政治的困難が伴い、巨額の投資が必要となる。

ヨーロッパでは、製品の安全性証明義務を企業に課すREACH規制が導入されているが、こうした予防的アプローチは世界でも例外的な存在だ。多くの国では依然として、政策担当者が化学製品の安全性証明の責任を負っている。また、化学セクターでは技術イノベーションが急速に進んでおり、政府の対策は必ずしも効果を上げていない。技術力・リソースに限りのある低所得国では、その傾向が特に顕著だ。

こうした現状を打破するためには、いくつかの基本的原則に基づいて対策を進める必要がある。まず規制は単一の化学物質ではなく、物質グループ全体を対象とすべきだ。柔軟かつ予防的な立法アプローチで、後追いの対応を避けることも重要となる。また製品の安全性や廃棄物の管理体制強化に取り組む企業へインセンティブを提供する政策も不可欠だ。有害性の報告義務化と汚染者負担の徹底も有効な方策だろう。

国境を越えた問題である化学汚染への効果的対策には、より一貫した国レベルの政策が求められる。特に生産拠点・消費地としての存在感を高めつつあるアジア太平洋地域で、化学セクターの急速な進化・拡大へ対応するためには、政策イノベーションの推進が不可欠だ。

また政策のポテンシャルを発揮させるためには、適切な実行・徹底を可能にする施行体制の整備が求められる。特に低所得国では、その実現に向けた投資・支援が欠かせない。近年急速な成長を遂げるグリーンファイナンス・セクターは、取り組みの鍵を握るだろう。

法規制体制の強化に向けて最大の弊害は、「認知不足」だ。海洋化学汚染の実態・深刻さを理解する政策担当者は、依然として少数にとどまっている。こうした現状を打破する上で重要となるのは、データ構築・活用体制の整備と科学者による実態把握の推進だろう。現在進行中のプラスチック汚染をめぐる国際条約の交渉も、海洋汚染に対する政府関係者の意識改革を後押しする可能性が高い。

 

Sign up to the Back to Blue newsletter to receive latest news and research from the programme.