プラスチック汚染は、国際社会にとって最も緊急性の高い環境問題の一つだ。海洋 環境には年間 1400 万トンもの廃プラスチックが流出し、生態系・人体に影響を及 ぼしている。早急な対策が必要なのはそのためだ。 Economist Impact は日本財団とミンダルー財団[Minderoo Foundation] に よる支援の下、『Back to Blue』イニシアティブとの連携を通じ、Global Plastics Summit をバンコクで 2023 年 10 月に開催した。開催日は、国際プラスチック 条約の実現に向けた第3回政府間交渉委員会[INC-3]の1ヶ月前、そして同条約の “ゼロドラフト”[素案]発表の数週間後だ。 本会議の主な目的は、政府・科学研究コミュニティ・NGO・民間セクターなどの ステークホルダー間でゼロドラフトについて議論し、さらなる明確化・検証が必要 な領域を特定することだ。プログラムでは、第1回・第2回政府交渉委員会[INC-1・ INC–2]で浮き彫りとなった主要な課題についても意見交換が行われている。INC–2 と INC–3 の間に開催された本会議では、公式の中間期会合よりも多様なステークホ ルダーの対話を実現することができた。 本会議のディスカッションでは、INC–2 で効果的な条約実現の鍵として特定され たゼロドラフトのいくつかの分野に重点が置かれた。科学研究の役割やプラスチッ クがもたらす影響、小島嶼開発途上国[SIDS]特有の課題、リユース制度の役割、 交渉の包摂性確保に向けた方策などはその一例だ。
本書で示される論点は、56 カ国 381 名の参加者によるディスカッションの内容 を反映するものだ。各参加者の見方が全て網羅されているわけではないが、会場では 活発な意見交換が行われ、重要なテーマやコンセンサスを形成可能な領域が明らか となった。 参加者の合意が形成された点の一つは、プラスチックのライフサイクル全体を 対象とした条約の必要性だ。また人体・環境の保護に向けた生産量削減、そしてリ ユース・製品の再設計・リサイクル推進を目的としたインセンティブ拡大も重要テー マとなる。その実現には、拡大生産者責任[EPR]を含む循環経済への移行支援が 不可欠だろう。 明確なコンセンサスが見られたもう一つの点は、グローバルサウス・SIDS の効果 的な交渉参加を可能にする科学・技術面の支援だ。モントレーベイ水族館の最高保全・ 科学研究責任者で国際科学評議会のプラスチック汚染ワーキング・グループ委員長も 務める Margaret Spring 氏は、交渉担当者に科学研究コミュニティの支援を求める よう呼びかけ、「どのような支援が必要なのか我々(あるいは INC 事務局)に伝えれば、 支援を厭わない」と発言。交渉期間中は非公式な形で支援を求めることも可能だが、 署名後の実施フェーズでは明確に制度化された科学・政策インターフェース[SPI] が必要だ。
国連環境計画[UNEP]は、2024 年末までの条約実現という野心的目標を掲げて いる。プロセスが中間点に差しかかった現在、本会議の参加者は交渉の行方につい て慎重ながらも楽観的見方を示している。チリ外務省環境・気候変動・海洋総局の 気候変動・プラスチック条約交渉調整官 Gozalo Guaiquil 氏によると、ゼロドラフ トには多様な選択肢が含まれており、交渉開始のベースとして十分な内容だという。
ただし科学者・NGO 代表者など一部の参加者は、明確な定義や詳細な規定が記載 されていない(特に付属文書)現行案が条約の実効性低下につながるとして懸念を 示している。例えば国際 NGO Environmental Investigation Agency の海洋キャン ペーン・リーダー Christina Dixon 氏は、将来的に設立される統括機関に決定事項 と見なされる可能性が高い規定・目標については、2024 年末までに合意を形成 する必要があるため、INC- 3では優先事項の一つとなると指摘。交渉にあたっては 「まず実現を目指し、その後内容を強化する」というアプローチが有効だという。
また条約施行に必要な財源確保も喫緊の課題だ。官民両セクターによる大規模 投資や、生産量削減・リユースの推進に向けたグローバルサウスへの資金支援メカ ニズムは、循環経済への公平・公正な移行を実現するために欠かせないだろう。
条約の締結に向けては、依然として様々な課題を解消する必要がある。主要規定 の定義・原則・適用範囲に関する合意の形成は特に重要だ。2024 年までの署名と いう目標を達成するためには、正式交渉の間の期間[intersessional period =中間期] に意欲的な作業プログラムを進める必要がある。
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