海洋汚染は複雑な問題だ。生態系・人体・経済へ大きな脅威をもたらしながらも、その影響に関するデータは不足しており、問題の防止・対策に向けた取り組みは十分に行われていな
『Back to Blue』は、過去2年間を通じて国連関連機関や科学・ビジネス・政策・金融などの専門家コミュニティと意見交換を進め、海洋汚染の現状に関する知見と求められる対策について相互理解を深めてきた。ロードマップは、こうした対話の中で生まれた知見を結集したものだ。
本ロードマップの目的は、多様なステークホルダーによる世界規模の野心的・戦略的協働を通じ、汚染の影響・規模に関する包括的エビデンスを確立すること、そして“2050年までに汚染のない海を世界規模で実現する”というビジョンの実現に向けた行動を促すことだ。
密接な相関関係で結ばれた“地球の三重危機”(汚染の危機・気候の危機・自然の危機)の中でも、汚染の解明・対策は最も遅れている。破壊的な潜在リスクにも関わらず、海洋生態系にもたらす影響・規模がごくわずかしか解明されていないのはそのためだ。既存データの多くは、先進国の沿岸部を対象としており、世界規模で汚染の状況を把握することは難しい。また汚染物質がもたらす複合的・累積的な影響、あるいは気候変動・海洋環境破壊との相関関係も十分に理解されていない。
単一の組織がこの壮大なビジョンを実現することは不可能に近い。エビデンスを集積し、海洋汚染の影響を軽減するためには、多様なステークホルダーによる世界規模の連携が欠かせない 。
このロードマップは、『国連海洋科学の10年』が掲げた課題の一つである海洋汚染の解明・克服に向けた戦略的道筋を示し、既存アプローチの抜本的見直しを提唱するものです。私はこのロードマップを推奨すると共に、海洋化学汚染防止に取り組む全ての関係者がその内容に注目することを願っています。
国連海洋特使
『世界規模の海洋汚染克服に向けて:行動推進のロードマップ』は、多くの組織の取り組み・連携加速を通じて汚染の影響に関する世界規模かつ包括的なエビデンス・ベースを構築する道筋を検証する報告書だ。
海洋汚染は生態系・人体・経済に深刻な脅威をもたらす存在だ。例えばEIUが行った調査によると、メキシコ湾沿岸部における富栄養化の進行によって米国が被る損失は、年間推計8億3800 万ドル(約 1260 億円)に達する見込みだ。 だがこれはあくまでも一例に過ぎない。海洋汚染が世界経済にもたらす損失ははるかに大きく、今後さらに深刻化する可能性が高いだろう。しかし、各国政府による規制の策定や汚染管理に必要なエビデンスの基礎となるデータは極めて少ない。海洋汚染データの蓄積が進めば、密接な相関関係を持つ気候変動・自然破壊・プラスチック汚染の対策にも大きく貢献するだろう。
政策担当者・政府に求められる取り組み:
海洋汚染に関しては、多くの国連機関が膨大な量のデータを収集しているが、その連携はほとんど進んでいない。そして、「国連海洋科学の10年」が折り返しを迎えようとする2024年現在も、汚染の規模と生態系・人体・経済への影響は明確に理解されていない。同イニシアティブが掲げる課題の一つ“海洋汚染の解明と克服”が実現する見込みは低いが、国連機関の連携が進めばこうした現状を大きく変えられる可能性がある。
国連機関に求められる取り組み:
汚染は気候変動・環境破壊と密接な関係を持ち、“地球三大危機”の一つに挙げられているが、その解明・対策は最も遅れている。規制・移行リスクなどの気候・自然関連リスクを重視する企業・投資家は増加しつつあるが、海洋汚染が事業・ポートフォリオ・サプライチェーンにもたらす影響については依然として関心が低い。こうした問題への対策は様々な機会をもたらすが、データ収集・分析の領域におけるイノベーション推進は特に重要だ。
企業・投資家に求められる取り組み:
固形プラスチックや栄養素など、一部の物質については広く研究が行われているが、その他の汚染源についてはほとんど(あるいは全く)データが収集されていない。 また海洋汚染データの多くは先進国の沿岸部に集中しており、公海・グローバルサウス諸国のデータはほとんど収集されていない。特に不足しているのが、長期間にわたって行われた調査の時系列データだ。
科学者・大学・データ収集機関に求められる取り組み:
プラスチックは数多くある汚染源の一つにすぎないが、最も可視化しやすいという性質ゆえに関心が高い。政策担当者・企業関係者・一般市民の認知度向上が進まなければ、海洋汚染の克服に向けた取り組みの広まりは期待できないだろう。
NGO・財団・活動家・市民に求められる取り組み:
このビジョンを実現するためには、データギャップの解消、ソリューションの導入・評価、広範なステークホルダーの関与、そして(最も重要となる)資金源確保に向けた投資誘致という課題を段階的に解消する必要がある
Back to Blue
エグゼクティブ・ディレクター
英エコノミスト・インパクト
グローバル・イニシアチブ
日本統括責任者
2050年までに世界規模で海洋汚染を克服するため、本ロードマップでは次のようなアクションを提案する:
データギャップの解消を目的とした既存の取り組みは、断片的で重複が目立ち、相互運用性の面で課題を抱えている。世界規模で調整役を担うマルチステークホルダー・タスクフォースを設立することで、戦略的ビジョンの確立と実行パートナー間の効果的連携が可能となる。
タスクフォースと事務局の運営においては、一つの組織が主導的役割を果たすことが望ましい。ユネスコ政府間海洋学委員会[IOC]か国連環境計画[UNEP]、あるいは両者が共同して全体を統括するという選択肢は有効だ。タスクフォースは『国連海洋科学の10年』のプログラムの一環として設立すべきだろう。
タスクフォースに求められる要件は以下の通り:
タスクフォースは『グローバル海洋汚染評価・行動計画』[GOPAAP]の監修・制作を行い、5年ごとに発表する。
GOPAAPに求められるのは、官民両セクターで順応性の高い意思決定を後押しし、断片的なデータソースの統合を通じて、海洋環境の現状や汚染の影響と汚染源・要因の因果関係を包括的に解明することだ。その第1版では、データギャップの現状を分析すると共に、科学的知見を活用した問題克服に向けて今後10~20年間の指針を明らかにし、第2版以降では監視体制の構築とソリューションの検証にフォーカスをシフトする必要がある。その実現には、明確かつ連携を重視した世界規模の戦略が不可欠だ。
GOPAAPの重要な目的の一つは、“2050年までに海洋汚染を世界規模で克服する”というビジョンの実現に貢献することだ。その内容は、既存の科学研究調査、協定や淡水域・陸上環境汚染のデータと高い関連性・補完性を持ち、次のような項目を掲載することが望ましい:
事務局の運営は、一つもしくは複数の組織が行う(IOCかUNEP、もしくは両者の連携が現状で最も有力な選択肢)。その主要な役割は以下の通り:
『世界規模の海洋汚染克服に向けて:行動推進のロードマップ』はこちらよりダウンロードいただけます
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