プラスチック汚染の軽減を目的とする国際協定の実現に向けた第一歩となったのは、2022年にウルグアイで開催された『プラスチック汚染対策に関する条約策定に向けた政府間交渉委員会第1回会合』[INC-1]、そして2023年5〜6月にパリで開催された『政府間交渉委員会第2回会合』[INC-2]だ。2023年11月にナイロビで開催される第3回会合でも交渉は継続される予定だが、プラスチックのライフサイクル全体を網羅し、汚染の影響が特に大きい小島嶼開発国[SIDS]のニーズを満たす協定を実現するためには、依然として様々な課題を克服する必要がある。
Economist Impactは国際プラスチック協定の実現に向けた交渉を後押しすべく、10月12日(水)に円卓会議とワーキンググループを開催した。取り組みの現状とSIDSが協定に求める要件を検証し、交渉・協定実施に向けて必要となる支援策を明らかにするのが主な目的だ。バンコクで開催されたGlobal Plastics Summitの中で企画された本プログラムは、『Back to Blue』イニシアティブの一環として日本財団と協力の下、活発な議論を促すチャタムハウスルールに則って実施された。
プラスチック包装材・製品の生産能力を持たないSIDS諸国は、自国の消費分を輸入で賄っており、廃棄物の埋立地として利用可能な土地も限られている。また海流によって他国の廃プラスチックが周辺海域や沿岸部へ流入し、深刻な被害をもたらしている。国としての規模は小さなSIDS諸国だが、国連では島嶼国グループとして大きな存在感を示しており、自らの国益を交渉に反映させるだけの影響力を持っている。
“国としての規模は小さなSIDS諸国だが、国連では島嶼国グループとして大きな存在感を発揮しており、自らの国益を交渉に反映させるだけの影響力を持っている”
セッションの冒頭を飾ったのは、SIDS諸国代表と学術機関の専門家、NGOのリーダーを交えたディスカッションだ。プログラム全体のモデレーターを務めたEconomist Impact エグゼクティブ・ディレクターのCharles Goddard氏は、協定の要件に関する各パネリストの見解を受け、交渉・実施の過程でSIDSが必要とする支援について問いかけた。
ディスカッションで明らかになったのは、小国としての制約克服に向けた技術・法規制・経済面の支援の必要性だ。例えば、国全体の人口が2万人程度のパラオを拠点とする統計の専門家はわずか3人だ(英国の統計専門家は同国の人口とほぼ同数)。また国単位の自主的な気候変動対策を促す協定であるパリ協定の教訓を学び、国際プラスチック協定は世界規模かつ法的拘束力を持つ形で実現されるべきだという見解も多く聞かれた。
『SIDS:Understanding the zero draft from an island perspective – opportunities for EPR, reuse and refill schemes』[SIDS:島嶼国の視点から見たゼロドラフトとEPR・リユース・リフィルスキームのもたらす機会]と題されたセッション(そして次に続くセッション)では、会場の参加者をテーブルごとのグループに分けてディスカッションを行った。主要なテーマとなったのは、プラスチック容器のリユース・リフィル推進に向けた政策、そしてSIDS諸国における廃棄物管理・インフラ開発の促進に向けた企業・先進国の支援と拡大生産者責任[EPR]の制度設計という二つのテーマだ。セッションの終わりには、各グループで行われたディスカッションの内容をそれぞれの代表者が発表し、主要な論点を参加者全体で共有した。
会議の冒頭で基調対談を行ったパラオ副大統領 J. Urdu h Sengebau Senior氏は、ディスカッションの重要テーマとなる様々な問題を提起した。SIDSにおける循環型経済のあり方とは、廃プラスチック対策の財源をどのように確保すべきか、民間企業が(特に拡大生産者責任(EPR)を通じて)果たすべき役割とは、といった問いかけはその一例だ。
一部のSIDS諸国と国際機関の代表者で構成されるパネリストも、この問題に関する様々な視点を共有した。例えばあるSIDS諸国では、草の根レベルの声の高まりを受けて実施された使い捨てプラスチックの段階的廃止措置が、技術的ノウハウの不足という課題に直面している。またこのケースでは、企業間・政府間の関係を活用したプラスチック製品の輸入管理措置の重要性が浮き彫りになった。別のSIDS諸国代表者は、(自主的ではなく)法的拘束力を持った規制、そしてバージンプラスチックを対象とした生産量削減措置の必要性を訴えている。
“パネリストの多くはグローバル規模の協定実現の必要性を訴えている。SIDS諸国が各国単位でプラスチック汚染に対応するのは難しいからだ”
他国から沿岸部へ流れ着いたプラスチックごみが、SIDS諸国の観光産業に及ぼす影響も深刻だ。こうした現状を受け、パネリストの多くは世界規模の協定実現の必要性を訴えている。SIDS諸国が国単位でプラスチック汚染に対応するのは難しいからだ。
プラスチック生産量全体の約4割を占める使い捨て包装材は、短い製品ライフサイクルを経て廃プラスチックとなり、SIDS諸国の経済・環境に深刻な影響を及ぼしている。政府機関とのパートナーシップを通じてプラスチック汚染に関するデータ収集・計画策定に取り組むCommon Seasはこうした現状を受け、プラスチック海洋流出の20%削減に向けたイニシアティブを推進。また同組織はEconomist Impact・英国ポーツマス大学 グローバルプラスチック政策センターと連携し、リユース・リフィルの普及・拡大に向けた計画案の策定をSIDS諸国の視点に基づき進めている。リユースはレストラン・チェーンや飲料メーカーなどが取り扱う容器が、リフィルはドリンクボトルやランチボックスなど一般消費者が使用する容器が対象だ。
Common Seasの創設者Jo Royle氏は、最初のブレークアウト・セッションの冒頭で会場の参加者をグループに分け、以下四つの優先課題をベースとした計画案の共同設計をタスクとして設定した:
約30分のディスカッションの後、各グループは提案と意見交換の内容を会場の参加者と共有。最初に発表を行ったグループ代表者は、ディスカッションの過程で問題の困難さを実感したと明かしながら、リユースを効果的に促進するためには罰則規定よりもインセンティブが有効であるという見方を示した。この見方には別のグループも同意し、インセンティブが市民のエンパワーメントと地域経済の成長につながると指摘している。全てのSIDS諸国に適用可能なソリューションは存在しないという別のグループの意見も、この見解に通じるものがある。ただし世界共通の基準を国レベルの政策に適用するというアプローチは有効だろう。
“リユース推進に向けたインセンティブの提供は、市民のエンパワーメントと地域経済の成長につながるだろう”
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