“夢のような夏休み”と聞いて、多くの人はきらめく太陽と白い砂浜が広がる青い海を思い浮かべるだろう。しかし現実の世界では、捨てられたペットボトルがせっかくの光景を台無しにしていることも珍しくない。そして透き通った水が、化学物質によって汚染されている恐れもある。
近年、金融セクターではESG投資が広まりを見せている。しかし投資家の多くは(一般市民と同様に)、海洋化学汚染の実態についてほとんど認識していない。
そしてこうした状況には、2000 年代中期の気候変動と重なる点が多い。保険会社 Allianz と世界自然保護基金[WWF]は 2005 年、気候変動が金融セクターにもたらす機会とリスクを検証した報告書『Climate Change & the Financial Sector:An Agenda for Action』[気候変動と金融セクター:行動に向けたアジェンダ]を発表したが、その序文では「気候変動は現実に存在し、進行しつつある問題だ」と強調している。15 年後の世界では常識となっている問題の存在自体を指摘しなければならないほど、理解は進んでいなかったのだ。
海洋化学汚染に対する金融セクターの認知度を、現在の気候変動のレベルまで高めなければ、問題の克服は難しいだろう。
Aviva Investors の Eugenie Mathieu 氏によると、「投資家の間では、化学汚染対策の優先度が必ずしも高くない」という。国連環境計画 金融イニシアティブ[UNEP FI]の統括責任者 Eric Usher 氏もこの見方に同意し、「ブルーエコノミー全体に関する金融セクターの理解は十分進んでおらず、認知向上の取り組みも依然として道半ばだ」と指摘する。
ESGの“E”(つまり環境分野)における活動も、温室効果ガスの削減を企業に働きかけることに重点が置かれているのが現状だ(その結果、ネットゼロ宣言を掲げる企業が世界的に増加しているのは確かだが)。しかし国連環境計画 世界自然保全モニタリングセンター[World Conservation Monitoring Centre = UNEP- WCMC]の自然経済分野統括責任者 Matt Jones 氏によると、投資家の間では経済活動が自然環境にもたらす幅広い影響への関心が高まっているという。気候変動が大きな焦点であることに代わりはないが、ネットゼロや自然環境の回復、社会的公平の実現につながる投資も拡大傾向にあるのだ。
こうした流れは、海洋汚染ゼロの実現に向けた大きな推進力となるだろう。例えば、これまで気候変動の影響を重視してきたEUのタクソノミー規則*は、2023 年に次の項目に関する規定を公表する予定だ:
タクソノミー規則:地球環境にとって企業の経済活動が持続可能であるかを判断する仕組み
また2023年に運用が開始されるTask Force for Nature-related Financial Disclosures[自然関連財務情報開示タスクフォース=TNFD]も、生物多様性や気候変動以外の要因(汚染を含む)が生態系へもたらす影響をタクソノミー規則の対象に含める予定だ。
TNFD:気候関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures:TCFD)に続き、自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築するために設立された国際的組織
これら二つの取り組みによって、気候変動以外の幅広い環境要因を真剣に考慮する投資家は増加するだろう。
一方、国連環境計画 金融イニシアティブは、銀行・投資機関・保険会社との連携を通じ、世界初のブルーエコノミー投資枠組みとなる『Sustainable Blue Economy Finance Principles』[サステナブル・ブルーファイナンス原則]を策定。同原則は、海洋化学汚染に伴うリスク・エクスポージャーの軽減に向けた投資家のガイドラインとして今後重要な役割を担う可能性がある。
国連グローバルコンパクトも、企業との連携を通じて『Sustainable Ocean Stewardship Coalition』[持続可能な海洋管理連合]を設立し、海洋環境へ流出する廃棄物(特にプラスチックごみや農業・生活排水からの栄養素)への対応に取り組んでいる。同連合の統括責任者 Erik Giercksky 氏によると、国連グローバル・コンパクトはこれらの原則を環境報告の仕組みとして活用すべく、大手投資機関との連繋を進めているという。
「企業は持続可能な海洋原則に沿って事業活動を行い、株主・市場の期待に応えることを求められている。より公正な市場環境を整えるための規制強化はもちろん必要だ。だが、規制が整備される間に企業が実行できる取り組みもある」と同氏は指摘する。
将来的に同氏が望むのは、保険会社や銀行、投資ファンドが投資先企業へ同原則に沿った環境報告を求めるという流れを加速させることだ。「数年内には、 海洋環境回復に向けた取り組みの “ゲームチェ ンジャー” になるかもしれない」という。
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